いけだワイン城を歩いていると、ワインそのものの味や歴史だけではなく、思わぬところで足が止まることがある。
そのひとつが、シャンパンボトルのサイズ比較であった。
最初は「大きなボトルが並んでいるな」くらいの感覚で見ていたのだが、近づいていくとだんだんおもしろくなってくる。単に大きさが違うだけではない。名前がいちいち壮大なのである。
マグナム。
ジョエロボアム。
マチュザレム。
サルマナザール。
バルタザール。
ナビュコドノゾール。
もはやワインのボトルというより、王様か預言者か神話の登場人物の一覧のようである。
普段よく聞くのは、せいぜいマグナムくらいだと思う。日本でも「マグナムサイズ」という言い方はわりと通じる。しかし、その先にこんな世界が広がっているとは知らなかった。ボトルが大きくなるほど、名前までどんどん重厚になっていくのが妙におかしい。
展示では、750mlの通常サイズであるブティユから始まり、2本分のマグナム、4本分のジョエロボアム、8本分のマチュザレム、12本分のサルマナザール、16本分のバルタザール、そして20本分のナビュコドノゾールまで並んでいた。
数字だけ見ても十分大きいのだが、実物が並んでいると、その差がよくわかる。
通常のボトルは手に持つ飲み物のサイズである。
しかし、上にいくほど「飲み物」というより、もはや展示物である。
特にナビュコドノゾールあたりになると、祝宴のための器というより、儀式の道具のような風格すらある。
しかも、おもしろいのは大きさだけではない。
名前の由来を見ていくと、これまた話が大きい。
ナビュコドノゾールは、新バビロニア王国の王ネブカドネザル2世に由来するという。オペラ「ナブッコ」の題材としても知られる名前である。ワインボトル20本分のサイズに、この名前を当てる感覚がすでにただならぬ。
バルタザールは、旧約聖書に登場する東方の3賢人の1人が有力とされるが、由来には諸説あるらしい。サルマナザールはアッシリア王国の王の名であり、マチュザレムは969歳まで生きた長老メトセラに由来するという。ジョエロボアムもまた旧約聖書に登場する王の名とされている。
なぜワインの瓶に、ここまで歴史と宗教と王の名前が並ぶのか。
そのこと自体が、なんだかおもしろい。
たぶんこれは、単なる容器の名前ではないのだと思う。
酒というものが、ただ飲むだけのものではなく、祝祭や権威や文化と深く結びついてきたからこそ、こういう命名が残っているのだろう。巨大なボトルというのは、日常のための道具ではない。人が集まる場、特別な席、記念の瞬間のための存在である。だからこそ、その名前まで物語めいているのかもしれない。
池田ワイン城でこの展示を見ていると、ワインというものが味だけでできているのではないことがよくわかる。
瓶の形にも文化があり、名前にも歴史があり、大きさにまで意味がある。
しかも、こういう展示は写真で見るより、実物を前にした方がずっとおもしろい。
「4本分」「8本分」と言われても、文字だけではあまり実感が湧かない。しかし、実際に並んでいると、ああ、ここから先はもう家庭用ではないな、ということが一目でわかる。大きくなるにつれて、ボトルが急に日用品からイベントの道具へ、そして象徴へと変わっていく感じがある。
個人的には、こういう展示に弱い。
味の説明よりも、こういう横道の知識の方に引っかかってしまうのである。
ワイン城に来ているのに、気がつけば「この名前、誰やねん」とボトルの由来ばかり読んでいる。たぶん見学のしかたとしては少しずれているのだろうが、旅の裏話としてはこういう寄り道の方が印象に残る。
マグナムまではなんとなく知っていても、その先にジョエロボアムやマチュザレムが控えている世界は、なかなか日常では出会わない。
池田ワイン城のシャンパンボトルサイズ比較は、ワイン文化の奥行きを、味ではなく大きさと名前で見せてくれる展示であった。
そして何より、巨大なボトルが並んでいるだけで、少し楽しい。
難しいことを知らなくても、まず見た目で引っかかる。
そのうえで名前の由来を読むと、さらにおもしろい。
こういう展示は、旅先で出会うと妙に得した気分になるのである。
シャンパンボトルサイズ比較
以下はワインボトルサイズとその由来を表にまとめたものです:
| ボトル名 | 容量 | 由来 |
|---|---|---|
| ナビュコドノゾール (Nabuchodonosor) | 20本分 | 新バビロニア王国第2代の王ネブカドネザル2世。オペラ「ナブッコ」の題材。 |
| バルタザール (Balthazar) | 16本分 | 旧約聖書に登場する東方の3賢人の1人(諸説あり)。 |
| サルマナザール (Salmanazar) | 12本分 | アッシリア王国のサルマナザール3世。大英博物館の「黒色オベリスク」に登場。 |
| マチュザレム (Mathusalem) | 8本分 | 旧約聖書の長老メトセラ(969歳まで生きた人物)。ぶどう園を植えた伝説を持つ。 |
| ジョエロボアム (Jeroboam) | 4本分 | 旧約聖書に登場するイスラエル初代王ヤロブアム1世。 |
| マグナム (Magnum) | 2本分 | ラテン語で「大きい」を意味し、日本では「マグナムサイズ」としても知られる。 |
| ブティユ (Bouteille) | 1本分 | フランス語で「ボトル」または「瓶」を意味する言葉。 |
容量は750mlボトル換算です。
この表はワインボトルの容量だけでなく、その名前に込められた歴史や文化の背景を一目で理解できるようにまとめています。

【ナビュコドノゾール Nabucuchodonosor】(16,000ml)
ワインボトル20本分のサイズ、ヴェルディが作曲したオペラ「ナブッコ」の題材となった新バビロニア王国2代目の王様の名に由来しています。

【バルタザール Balthazar】(12,000ml)
ワインボトル16本分のサイズ。旧約聖書に登場しイエスの誕生時に現れた東方の3賢人の一人が有力とされていますが、その由来には諸説あるとされています。

【サルマナザール Salmanazer】(9000ml)
ワインボトル12本分のサイズ。サルマナザール3世に由来。その姿は大英博物館所蔵の石碑「黒色オベリスク」にも登場

【マチュザレム Mathusalem】(6,000ml)
ワインボトル8本分のサイズ。旧約聖書内にて969歳まで生き、人類初のぶどう園にぶどうの木を植えたとされる長老の名に由来。

【ジョエロボアム Jeroboam】(3,000ml)
ワインボトル4本分のサイズ。名前の由来は旧約聖書に登場するイスラエルを建国した人物ヤロブアム1世とされています。

【マグナム Magnum】(1,500ml)
ワインボトル2本分のサイズ。日本では物の大きい例えとして「マグナムサイズ」と言われますが、その語源はこの大瓶に由来しています。

【ブティユ Bouteille】(750ml)
フランス語で「ボトル、瓶」の意味。日本でワインボトルと呼ばれる定番サイズ。ハーフボトル(375ml)に対してフルボトルと呼ばれることも。

