2026年冬の北海道車中泊の旅(Part18)3日目:2026/02/23
——「旅が日常の延長になった日」の巻
3時。ホテルで目が覚める。外は雨。
旅先の早起きは、意欲というより“体内時計の暴走”である。冬季オリンピックの閉会式をぼんやり眺めながら、まだ夜の余韻が残っている帯広を思う。昨日は駅前ではしごして、ちゃんと楽しかった。今日は、ちゃんと生活する日になる気がする。
7時45分にチェックアウト。雨は上がっている。
まずは、今回から借りた月極駐車場へ歩く。帯広駅のセブンでホットコーヒーを1本。こういう“味のない安心”が、旅の朝にはちょうどいい。

高架下を沿って15分。3300円の月極駐車場に到着。
駅から歩いて5分のところは8800円らしい。
この差額、毎月5500円。年間にすると……と頭が動き出して、途中でやめた。旅先で細かい計算を始めると、だいたい楽しくなくなる。けど、こういう計算をしている時点で、もうこれは旅というより日常の延長なんやと思う。
8時40分、理髪館ブルーへ。
この時期に雪じゃなく雨って聞いて、店の人が驚いていた。ほんまにそうやな。帯広の冬は、「想定」をちょっとズラしてくる。
途中で奥さんが来て、昨日若い子に順番を譲ったことを感謝された。
「関西人はもっとガツガツ来ると思ってたけど、奥ゆかしいですね」
と言われて、思わず返す。
「それこそが関西人ですねん」
言いながら、ちょっと笑ってしまう。
関西人って、ガツガツもするけど、譲るときは譲る。譲った上で“言い返しの一言”で場を丸くする。たぶん、そういう芸みたいなものが身体に染みてる。
ローソンでコーヒーを追加して、ガソリンスタンドへ。
洗車して、タイヤの空気圧を調整してもらう。もう普通に日常。
旅先でこれをやってる時点で、だいぶおかしいのに、気持ちは妙に落ち着く。移動の自由って、こういう“面倒の引き受け”もセットなんやなと思う。
洗髪をして、10時45分。息子の部屋から出発して「とん田」の豚丼へ。
11時に着いた時点で、まさかの1時間待ち。人気店は容赦ない。
待ってる間に、サッカーワールドカップのカナダ行きと、彼女ができたタイミングが重なったらしく、仕送りの前借りを頼まれて2ヶ月分を送る。
豚丼を待ちながら、仕送りを振り込む。
旅の途中でも、親は親のままや。
うまいもんの列に並びながら、現実はきちんと差し込まれてくる。でも、それが悪いとも思わない。
待ち時間が長かったので、『ノマドワークは泥だらけ』を読ませてみた。
ずっと読み入っていた。
こういう瞬間は、じわっと効く。派手に褒められるより、「黙って読み続ける」っていう反応のほうが、たぶん信用できる。

12時50分、ビート博物館へ。
夏以来、2回目の“初”のつもりが、月曜休館日。
旅はこういう空振りを、平気な顔で差し出してくる。
気を取り直して、やよい乃湯へ。
湯に浸かると、膝がほどけていく。屈伸はまだ痛い。でも繰り返すと楽になる。
身体って、ちゃんと対話すればちゃんと返事するんやな、と思う。
北海道の旅は、景色を見る旅でもあるけど、身体の状態を毎日点検する旅でもある。
14時45分、拠点へ戻る。洗濯。
ツルハドラッグで洗剤とゴミ袋を買って、また戻る。
回した洗濯を取って、ルミナスフルールで乾燥。冬場のルミナスフルールはありがたい。
旅先で「乾燥」という言葉に感謝する日が来るとは思わなかった。
17時10分、帯広駅まで送ってもらう。
息子はそのまま車でバイトへ。
駅2階、十勝観光案内の横のお土産屋でTシャツを物色。カムイ熊の“広さげ”なやつがあって、帰りに買おうと決める。こういう“帰りの自分への宿題”があると、街歩きが少し楽になる。
17時半、「とかち晴ル」へ。
カウンター10席全部に、ひざ掛け毛布が置いてある。この配慮、本州ではあまり見ない。

忙しそうなホールのおじさんは、むしろ愛嬌で回している感じがする。上手い。
お通しはパンとメープルバターと、ほたてスープ。

パンとメープルバターはうまい。うまいけど、これ、ビールじゃなくて紅茶かコーヒーやろ。
ほたてスープをブリッジにする。
こういう“間を繋ぐ一杯”を自然に挟めるようになったら、人はもう立派なはしご人である。
名物のポテサラは、厚切りベーコンが主役級で、ハサミがついてくる。
鉄板に玉ねぎをぐるっと回して、中にポテト、ゆで卵、そして厚切りベーコン。
「名物」って、味だけじゃなくて演出なんやなと納得する。
18時半に店を出る。ここでもミニカイロをくれた。
昨日も思ったけど、この“ミニカイロ文化”は効く。体も、気持ちも。
こういう心遣いに触れると、そのグループ会社(エイムカンパニー)に興味が湧くのも分かる。飲食って、結局は「寒い夜に何を渡すか」なんやろな。
18時40分、「たんじろう」へ。
まずハイボール。極上厚切りタン、味付けサガリ、ごぼうスライス揚げ。

二杯目は熱燗で「北の勝」。口当たりにコクがあるのに、後味がすっと切れる。寒い街の酒は、こういうのが似合う。
ふと目に入ったのが「十勝の白い卵」の説明。
さっきの卵が白かった。黄身まで白い。
「黄身が白いって、どういうことやねん」
と一瞬思って、説明を読むと“お米育ち”だとか、北海道産だとか、安心安全だとか。
なるほど、卵にも土地のロジックがある。旅先で食品の背景を読むと、妙に納得してしまう。
コマイを頼んで、日本酒と合わせる。
そのあと北の屋台を覗いて回るが、常連の空気が濃くて入りにくい。分かる。

そこで、たまたま客がいなかったワインの店「オーロラ」へ。

店主は無口。思った通り。
でも、こういう無口は嫌じゃない。お通しの白子の薫製が、きっちり美味い。説明より先に味で答えるタイプの店。
21時40分、とろたこ焼き屋へ。
生ビール。ガーリックバターたこ焼き。イタリアンたこ焼き。
帯広でたこ焼き、というミスマッチが逆にいい。人は一周回ると、ソウルに戻る。
22時過ぎに店を出て、駅の待合室でテレビを見ながら息子の迎えを待つ。
22時半、帯広駅南口で合流。部屋に戻って寝る。
……が、24時、2時、4時と逆流性で目が覚める。
体は正直や。
でも今日という一日は、雨上がりの帯広で、洗車して、散髪して、洗濯して、飯を待って、湯で膝をほぐして、また飲んで。
特別なことは何もない。
ただ、帯広で普通に暮らしていただけの一日や。
旅はもう、非日常ではない。
日常の延長線の上にある。
たぶん、こういう地味な日があるから、次の移動がちゃんと意味を持つ。
帯広の夜は、まだ寒い。でも、人の手はあったかい。
ほな、また明日。

