帯広のばんえい競馬場を訪れたのは水曜日であった。
正式名称は帯広競馬場である。
それでも自分の中では、やはりばんえい競馬場という呼び方の方がしっくりくる。

この日は、馬の資料館も飲食店も休みで、全体としてはかなり静かであった。
開催日でもない。
ぱっと見た印象では、今日はあまり動いていない日なのだろうと思った。
ところが、駐車場や施設には警備員さんがいた。

中に入ってみると、その理由が少しずつ見えてきた。
最初はそれが少し不思議であった。資料館も休み、飲食店も休み、レースもない。それなのに、なぜこんなに人の気配があるのだろうと思ったのである。

まず、地方競馬の馬券を真剣な顔で買っているおっちゃん達がいた。開催されていない帯広競馬場に来ているのに、目の前にはちゃんと勝負の空気がある。ここは完全に止まっている場所ではなく、別の回路で動いているのだとわかった。
一方で、馬とのふれあい広場のような場所では、なぜか3組のカップルがデートしていた。

これもまたおもしろかった。競馬場といえば、どうしてもギャンブルの場という印象が強い。
しかし実際には、馬を見たり、歩いたり、少しのんびりした時間を過ごしたりする場所としても使われている。

しかも、その日は開催日ではないから、むしろ全体の空気は穏やかで、デートにはちょうどよかったのかもしれない。

そして自分は何をしていたかというと、一人でにんじんスティックを馬たちにまんべんなく与えていた。
自分で書いていても、なかなか不思議な構図である。
真顔で馬券を買っているおっちゃん達がいる。
カップルが馬の近くで時間を過ごしている。
その横で、自分は一人で、なるべく偏りのないように馬たちににんじんを配っている。
同じばんえい競馬場の中にいながら、みんなこの場所をまるで別の施設のように使っているのである。
たぶん、そこがいちばんおもしろかった。

競馬場というと、レースがあってこそ成り立つ場所のように思ってしまう。
しかし、ばんえい競馬場はそれだけではなかった。開催していない日でも、馬券を買う人がいて、馬を見に来る人がいて、デートする人がいて、馬ににんじんをやる人間もいる。
静かではあるが、ちゃんと人がいて、ちゃんとそれぞれの時間が流れている。
だからこそ、警備員さんがいたのだろう。
最初は「なぜこんな日に」と思ったが、しばらく歩いているうちに、その違和感は消えた。ここは閉まっているようで、完全には閉まっていない。
止まっているようで、止まっていない。開催のある日とは別の形で、ばんえい競馬場という場所は生きていたのである。
観光地でもそういうことはある。表向きのメイン施設が休みでも、その場所そのものには別の使われ方がある。地元の人にとっての動線があり、常連の時間があり、観光客の知らないリズムがある。
ばんえい競馬場も、まさにそういう場所なのだと思った。
レースの日の熱気とは違う。
資料館も飲食店も閉まっていて、どこか拍子抜けするような静けさがある。
それでも、人はいる。
しかも、いる人たちの目的がそれぞれ違う。
その混ざり方が妙におもしろかった。
開催されていないばんえい競馬場には、何もないわけではなかった。
むしろ、レースのない日だからこそ見える、この場所のもう一つの顔があったのである。

