道の駅おとふけ、居酒屋車中泊(第一話)

車中泊仕様の軽バン車内で、簡易テーブルに並べたサッポロクラシック、畜大酒、氷下魚の干物と惣菜。冬の十勝で開店した一人居酒屋車中泊の夜。

道の駅おとふけ、居酒屋車中泊の夜

鳳乃舞の駐車場を出るころには、外気はもう冬の入口みたいな冷たさになっていた。

体の芯には、さっきまで浸かっていた42度前後の湯のぬくもりが、まだかすかに残っている。

「さて。今夜の店に向かうか。」

店といっても、もちろん自分の車だ。

それでも、あの道の駅おとふけの一角はもう、頭の中では完全に「居酒屋」の看板がかかっている。

ハンドルを握りながら、頭の中で今夜の“営業準備”を確認する。

―― 十勝カマンベール
―― ホタテ貝柱入りかまぼこ
―― ウニ入りかまぼこ
―― 昆布入りさけるチーズ
―― ほたてみみの炙り用
―― トリスのミニボトル
―― 畜大酒

あのセイコーマートの売り場を一巡りして選んだラインナップが、今、助手席のコンビニ袋の中でカサカサと揺れている。

(我ながら、いい仕入れやったな……)


道の駅に着く

21時もとうに回って、道の駅おとふけに着く。

初日、「車中泊スペースここか?」と勘違いしていた場所を、今度は少し離れたところから冷静に見直す。

「あ、ちゃんと“車中泊専用スペース”って書いてるやん……」

看板。区画。照明の位置。目が“居酒屋モード”に切り替わると、風景の見え方も変わってくる。

今夜の店はここだ。ここが、帯広郊外の一夜限りの「居酒屋・おとふけ」。

エンジンを切ると、急に世界が静かになる。フロントガラス越しに見えるのは、ほの暗い駐車場の灯りと、
その向こうの、広い空の黒さ。

「さて、開店準備しますか。」


開店準備:車内がカウンターになる瞬間

まずは荷台に移ってクーラーボックスを「飲みやすいポジション」に合わせる。

クーラーボックスの天板はテーブル代わりになる。

足元にはポータブル電源。天井から吊るしたLEDライトが、ほんのり暖色で車内を照らす。

この瞬間が好きだ。

さっきまで、ただの移動手段だった空間が、一気に「一人飲みの座敷席」に変わる。

コンビニ袋から、今夜の役者たちを一品ずつ取り出して並べる。

・ウニ入りかまぼこ
・ホタテ貝柱入りかまぼこ
・十勝カマンベール
・昆布入りさけるチーズ
・ほたてみみ

そして、

・トリスのミニボトル
・畜大酒

(あの時、セイコマでトリスをカゴに放り込んだ自分を褒めたいな……)

―― よし。
これなら、どのタイミングで酔っても後悔しない布陣だ。


一杯目:トリスとチーズで、静かな乾杯

まずはトリスのミニボトルを手に取る。

カチッ、とキャップを開ける音が、やけに大げさに響く。

炭酸水をコップに注ぎ、そこにトリスをとくとくと落とす。泡が一瞬だけざわっと立って、すぐに落ち着く。

「はい、開店」

誰もいない車内で、小さくそうつぶやいてグラスを口に運ぶ。

―― ああ、このジャンクな香り。
高級でもなんでもないけど、「移動式の居酒屋」には、これくらいがちょうどいい。

つまみの一番手は、十勝カマンベール。
さっきセイコーマートで、「十勝ってついてたら、とりあえず正解やろ」と半ば反射神経でカゴに入れたやつだ。

ひと口かじる。
トリスを、もう一口。

(うん、今日は悪くない。むしろ、かなりいい。)

温泉でほぐれた体に、アルコールがゆっくり染みていく。


回想:あの売り場での「仕込み」の時間

ふと、さっきのセイコーマートの売り場が浮かぶ。

冷蔵コーナーの前で、パックに入ったかまぼこをじーっと見つめるオッサン一人。

「ホタテ貝柱入り……」
「ウニ入り……」

並んだ文字だけ見ると、かなり贅沢だ。
けれど、どれも一パック数百円。
旅のつまみとしては、ちょうど“気持ちよく背伸びできる価格帯”。

(どうせなら、“北海道の海”を一気に車内に連れて帰ろうか)

そう思って、二つともカゴに入れた。
あの瞬間から、今夜の「居酒屋車中泊」は始まっていたのかもしれない。


二杯目:ホタテとウニで、車内が一気に「海」になる

トリスのグラスが半分ほど空いたところで、ホタテ貝柱入りかまぼこを開ける。

パックを剥がすと、ふっと、加工場の匂いの向こうに、一瞬だけ「港」の気配がする。気がする。

ひと切れをかじる。

―― うん、ちゃんとホタテだ。
「なんとなく入ってます」じゃなくて、きちんと主張してくる。

これは、次の一手に迷うやつだ。

・ビールが欲しくなる旨さ
・でも、トリスでも悪くない
・日本酒に合わせたら、もっと面白そう

(さあ、どうする?)

ここで、ウニ入りかまぼこのパックにも手を伸ばしてしまう。

2品同時開けは、居酒屋的にはNGかもしれないけど、
車内居酒屋は「自分ルールが絶対」な世界だ。

ウニの芳ばしい香りと、ホタテのやさしい甘み。
二種類を交互につまみながら、トリスを飲む。

「これはもう、海やな。」

思わず小声でつぶやく。

駐車場のアスファルトの上に停めた軽バンの中で、
自分だけの「海鮮カウンター」が成立してしまった。


日本酒タイム:畜大酒と「ほたてみみ」

トリスのグラスが空になったところで、少し間を置く。

車内の空気が、さっきより少しだけ柔らかくなっている。

ここで、満を持して畜大酒を取り出す。
「応援も込めて」と買った一本。

(帯広に来るたびに、少しずつ地元に“投資”していってる気がするな)

プラスチックコップに、ちょっとだけ注ぐ。
湯気は立たないけど、匂いはふわりと広がる。

つまみは、満を持して「ほたてみみ」。

チャッカマンで軽く炙ったやつだ。
にんにく入り南蛮味噌をちょんとのせる。

―― これはもう、間違いなく日本酒案件。

一口。

ほたての香ばしい旨み、南蛮味噌の辛み、にんにくのパンチ。そこに、畜大酒を流し込む。

「うまいに決まってるわな……」

誰に言うでもない言葉が、ぽろっと漏れる。


静かな締め:ご飯と南蛮味噌で「北海道の夜」を終える

畜大酒をちびちびやりながら、外を見る。
道の駅の灯りが少し遠く感じる。

車内は、もう完全に自分だけの世界だ。

そろそろ締めに入ろう。
最後は、

「ご飯+にんにく入り南蛮味噌」。

シンプルすぎる組み合わせなのに、今日一日を通して出会ってきた土地の味が、一口ごとに全部よみがえってくる。

(ああ、これで今日も終われるな。)

腹八分。いや、ちょっと超えてるか。

でも、車の中でこのレベルの晩酌が完結するなら、それくらいの誤差は、もはやご褒美だ。

ポータブル電源の残量をチラッと確認する。
まだ余裕でいけるが、今日はここまでにしておく。

灯りを少し落として、
身体を倒し、
寝袋を肩まで引き上げる。

温泉の余韻。
アルコールのやわらかい眠気。
遠くで聞こえる、誰かのドアを閉める音。

―― こうして、鹿追と帯広のあいだのどこかで、
静かに夜が更けていく。

「居酒屋車中泊、本日の営業終了。」

心の中でそう宣言して、目を閉じた。

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