いけだワイン城でアランビックに目を奪われた話

アランビック(Alambic・蒸留器)

いけだワイン城を歩いていると、ワインそのものとは少し違う種類の迫力を放つものが現れる。
アランビック、蒸留器である。

アランビック(Alambic・蒸留器)

ワイン城といえば、まず思い浮かぶのはワインであり、熟成庫であり、試飲である。
しかし、その流れの中でこの銅製の大きな装置を見ると、少し足が止まる。

これは何だろうと思う。

瓶でもない。樽でもない。いかにも「設備」でありながら、どこか工芸品のような存在感もある。

アランビック(Alambic・蒸留器)前面
アランビック(Alambic・蒸留器)前面

説明によれば、これはコニャック地方で生まれるブランデー、コニャックの製造に使われる「アランビック」と呼ばれる銅製の蒸留器である。

コニャックは、ワインをそのまま飲むのではなく、一度蒸留して高濃度のアルコール液にし、さらに木樽で長期間熟成させてつくられる。

アランビック(Alambic・蒸留器)最高のブランデーと言われているコニャックはフランスのコニャック地方で作られています。 ブランデーはワインを蒸留し、高濃度のアルコール液にした後、長期間木樽で熟成をへて出来上がります。この蒸留器はアランビックと呼ばれ、全て銅で作られています。このアランビックは数百十年前にコニャック 地方で作られ、燃料には石炭を使い、1950年代まで現地で実際に使われていたものです。
アランビック(Alambic・蒸留器)

つまり、ワインの延長線上にありながら、まったく別の時間を歩み始める酒でもある。

その入口にあるのが、この蒸留という工程である。

ワイン城の中で見ているのに、ここだけ少し空気が違うのがおもしろい。
ワインが発酵と熟成の酒だとすれば、ブランデーはそこにさらに蒸留という操作が加わる。
静かに寝かせるだけではなく、一度ぐっと凝縮させる工程がある。
アランビックは、その転換点そのもののように見えた。

しかも、この蒸留器はただの模型でもレプリカでもない。
数百十年前にコニャック地方で製造されたもので、当時は石炭を燃料として使っていたという。
実際に使用されていたのは1950年代までとのことで、そう聞くと急に展示物の見え方が変わる。
単なる古い機械ではない。長いあいだ現場で働いてきた、本物の道具なのである。

銅の質感もよい。
新品のぴかぴかした機械とは違って、時間をくぐってきた金属だけが持つ重みがある。
巨大なのに、どこか繊細でもある。
配管や曲線のかたちには、工業製品というより古い楽器のような美しささえ感じた。

ワイン城では、どうしても飲むことや味わうことに意識が向く。
それは当然である。
しかし、このアランビックを前にすると、酒というものが味だけではできていないことがよくわかる。
そこには技術があり、熱があり、道具があり、長い歴史がある。
しかも、その歴史は日本だけで完結していない。遠くコニャック地方の文化や技術が、こうして十勝のワイン城の中に息づいているのである。

旅先では、予定していた見どころより、思いがけないものに心を持っていかれることがある。
自分にとって、このアランビックはまさにそれであった。
最初から蒸留器を見に来たわけではない。
それでも、目の前に現れたこの銅の装置には、妙に引き寄せられた。

ワイン城の中で出会ったのに、どこか異国の工場のようでもあり、古い研究室のようでもあり、職人の現場のようでもある。
アランビックとは、そういう不思議な存在であった。

ワインを飲む場所だと思っていた池田ワイン城には、ワインを蒸留し、別の酒へと生まれ変わらせる歴史まで置かれていた。
そのことが、なんだかとてもおもしろかったのである。

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