雪道を歩いて帯広駅までたどり着いたあと、13時40分、駅中にある『達福』へ入った。
瓶ビールと唐揚げと粗挽きソーセージ。
歩いた後のビールは、だいたい正解である。

こういう一杯は、特別に凝ったものでなくてよい。
むしろ、駅の中で少し腰を下ろし、瓶ビールを開けて、唐揚げをつまみ、ソーセージを食べる。その手順そのものが、帰る前の気持ちを少しずつ整えてくれる。移動の途中でありながら、そこだけ時間がゆるむ感じがある。
雪道を歩いた後だったから、なおさらであった。
足元のぐしゃぐしゃした感覚も、道を読み違えたことも、瓶ビールをひと口飲むとだいぶ遠くなる。歩いた後のビールは、味そのものより、そこにたどり着いたことまで含めてうまいのだと思う。
達福を出たあと、14時10分、2年ぶりに『豚はげ』へ向かった。
ここは、受験のときに息子と帯広で初めて食べた豚丼の店である。
店の名前を見るだけで、そのときのことが自然と浮かんでくる。どこに行こうかと必死でGoogleマップを見ながら探したこと。帯広で初めて一緒に食べた豚丼のこと。店まで歩いた空気まで、少しずつ戻ってくる。
味というのは、不思議なものである。
舌で覚えているだけではない。その店まで行った時間や、そのとき隣にいた人や、スマホで必死に道を確認していた感じまで、一緒に引っ張り出してくる。だから食べ物は、しばしば思い出のスイッチになる。
豚はげの豚丼は、グリーンピースが特徴的である。
それを見るだけで、ああこれやな、と思う。派手な記号ではないのに、ひと目でその店のものだと分かる。そういう小さな特徴が、記憶を強くするのかもしれない。

帰る前に食べるものというのは、ただ腹を満たすだけでは終わらない。
駅中の達福で飲む瓶ビールも、豚はげの豚丼も、この旅を締めるための食事になっている。しかもそれは、今回の旅だけを締めるのではなく、これまで帯広で積み重ねてきた時間も一緒にまとめてくれる。
15時発、ミルキーライナーに乗った。
バスから見る景色も久しぶりである。
いつもは自分で運転しているから、移動中も景色は流れていくものでしかない。だが、運転せずにゆっくり窓の外を見ると、同じ道でも少し違って見える。それもまた、帰り道のよさだと思う。

16時25分、占冠サービスエリア。
空港では今回の旅のKindle本を編集した。
帰る直前まで、仕事と旅は並走している。
完全にスイッチが切り替わるわけではない。帯広の雪も、豚丼も、馬にあげたにんじんも、全部ちゃんと身体に入ったまま、その続きを文章にしていく。そういう時間のつながり方も、いまの自分の旅の形なのだろう。
こうして、2月の北海道はひとまずここで区切りとなった。
達福の瓶ビールも、豚はげの豚丼も、その区切りにちょうどよかった。
帰る前に立ち寄る店には、味以上の意味がある。
食べることで旅が終わり、思い出すことで次につながる。
帯広駅まわりのこの2軒は、自分にとってそういう定番になっているのである。

