オールドビンテージワインと地下熟成室
いけだワイン城の中でも、特に印象に残ったのが地下熟成室である。
地上の雪景色や石造りの建物も十分に美しいのだが、地下に降りたとき、この場所にはまた別の時間が流れていると感じた。少しひんやりしていて、空気が静かで、温度まで含めて「熟成のための場所」になっている。観光施設の一角というより、時間そのものを保管している部屋のようであった。

地下熟成室には樽が並んでいる。大きな樽が整然と置かれているだけなのに、なぜか見入ってしまう。派手さはない。しかし、その無言のたたずまいに、十勝ワインが長い年月をかけて積み上げてきたものがにじんでいる気がした。

その中でも、強く目を引いたのがオールドビンテージワインである。
厳重に貯蔵されているその姿は、単なる古いワインではなかった。瓶の表面にはカビが生えている。普通なら「古い」「汚れている」と見えてもおかしくないのだが、ここではむしろ逆である。湿度の高い条件で、長い年月をかけて保存されてきた証として、その姿に重みが宿っていた。

説明によると、これは1963年に十勝ワインが製造を開始して以来の長期熟成ワインであり、販売を目的としたものではなく、試験研究のためだけに保存されているものだという。つまり、商品ではなく、歴史そのものなのである。
瓶に記された数字は、ブドウの収穫年を表しているらしい。
自分の生まれ年、大切な人の生まれ年、そんな年号を探したくなる気持ちが少しわかる。ワインを飲むというより、時間に会いにいく感覚に近いのかもしれない。

地下熟成室の説明には、十勝ワインの歴史は山ブドウに始まったとあった。北国特有の酸味豊かなブドウが、熟成を経て本物のワインに生まれ変わる。その言葉を読んでから樽や瓶を見ると、ただ並んでいるだけのものが少し違って見えてくる。十勝ワインが辛口や赤ワイン、そして熟成にこだわる理由が、こういう場所に凝縮されているのだろうと思った。
しかも、この熟成室は一年を通して約15度に調整されているという。文章で読むと数字だけの話だが、実際にその場に立つと、それがよくわかる。目で見るだけではなく、肌で感じるための場所である。説明文に「五感で感じてほしい」とあるのも納得であった。
地下熟成室にはバーカウンターもあり、ただ保管するだけの空間ではなく、ワインの時間と人の時間が交差する場所になっているように見えた。飲むための場所と、眠らせるための場所が同じ地下にあるのがおもしろい。ワインは動きのある飲み物でありながら、同時に静かに待つ飲み物でもあるのだと感じた。

ブランデー熟成樽
さらに印象に残ったのが、ブランデー熟成用の樽である。

説明によれば、十勝ワインは1964年にブランデーの製造を開始したという。このNo.1240の樽は、ワイン城ができた1974年に購入され、2021年2月までブランデーの熟成用として使われていたそうだ。約半世紀近く現場で働いてきたことになる。
しかも、仲間であるNo.1241から1244の樽は、いまも蒸留室で現役なのだという。

そう聞くと、この空になった樽もただの展示物ではなく、長い仕事を終えてここに立っている古参のように見えてくる。説明文には「ほのかにブランデーの芳醇な香りが漂っていませんか」とあったが、こういう書き方もいい。見るだけの展示ではなく、想像まで引き出してくる。
池田ワイン城の地下熟成室にあったのは、ワインそのもの以上に、時間の厚みであった。
新しいもの、わかりやすいもの、派手なものではない。樽で待ち、瓶で眠り、温度と湿度の中で少しずつ変わっていくもの。その静かな変化を大事にしてきたからこそ、十勝ワインには十勝ワインの歴史があるのだろう。
旅先では、つい景色や味の方に意識が向く。
しかしこの地下では、味の前に時間があった。
池田ワイン城の地下熟成室は、十勝ワインを飲む前に、その時間を感じる場所であった。






