【北海道#18-2】帯広駅前はしご酒。寒さの針と、3000円の魔法

帯広駅前の炉端居酒屋で、炭火の上に置かれた殻付きホタテにバターをのせて焼いている様子

2026年冬の北海道車中泊の旅(Part18)2日目:2026/02/22

——「喉が痛いのに、なんでこんな元気に飲んでるんやろ」の巻

5時40分。道の駅おとふけで目が覚める。

喉が痛い。起き抜けから、身体が「風邪の入り口です」と丁寧に案内してくる。

外に出て顔を洗う。指先が、痛いほどしびれる寒さ。

冬の十勝の朝は、優しくない。優しくないけど、嫌いになれない。

10分ほどデフロスターでフロントガラスの曇りを取りながら、車内で小さくため息をつく。

6時10分、鳳乃舞へ。

サウナに入って、冷気の中で外気浴。帯広の景色を見ながら「整う」って、だいぶ贅沢やと思う。昨日の氷点下車中泊で固まった肩と腰が、じわじわほどけていく。

ここで洗濯も回す。温泉で洗濯する人生、いつから始まったんやろう。

温泉を出てオイル交換へ向かう。

給油してオイル交換を頼む。作業待ちのあいだ、ガソリンスタンドでブログをアップする。

旅のルーティンが「温泉→洗濯→オイル交換→ブログ」になってるの、冷静に考えるとおかしい。でも、こういう“整い方”もある。

9時半、理髪店ブルー。

待ち時間があるが、別に構わない。時間は旅の中で、勝手に形を変える。

10分ほどして若い子が入ってきた。11時半から予定があるらしくギリギリみたいで、順番を譲る。

こっちは別に急ぐ用事もなかったので、明日また来る約束をして店を出る。

今日は帯広駅前で呑むことにした。

ホテルニュー帯広を予約。シングル4800円。

この値段で「駅前に拠点ができる」のは、単純にありがたい。

DCM(ホームセンター)でシガーソケットに挿す強力なUSBポートを買う。

旅はロマンとか絶景とかよりも、まず電源である。電源があれば、だいたい何とかなる。たぶん人生も同じ。

新しく契約した月極駐車場へ。2つあって分かりにくい。こういうのも現地あるある。

地面を見て「駐車場の地面とは思えないジュエリーアス(もどき)」が撮影できた。

帯広の駐車場の凍った地面に散らばる小さな氷の粒が、ジュエリーアイスのように輝いている風景

現地の人からしたら何てことない景色なんだろうけど、外から来ると、こういう“どうでもいい美しさ”にいちいち心が動く。

「うわ、こんなん撮ってまうんか」

自分にツッコミを入れつつ、ちょっと嬉しい。

さて、帯広駅まで歩くか。11時に歩き出す。

……と思ったら、荷物を忘れて300m戻る。

旅の歩数は、だいたい忘れ物で稼いでいる。

正午前、じんぎすかん北海道へ。

待ち時間40分。3連休の真ん中、日曜日。そりゃそうか。

洗濯のことを考えると匂いをつけたくないので、パーカーを脱いで長Tだけで入店。

寒さと匂いの間で、旅人はいつも細かい判断を迫られる。

帯広のジンギスカン店で、炭火の上でマトンと野菜を焼いている様子

ご飯大を2杯。キングマトン、キングラム、ホルモン、キムチ、焼き野菜などで3200円。

「喉痛い言うてたの誰やったっけ」

肉を前にすると、体調の自己申告なんて簡単に覆る。すごい。

12時20分、店を出る。駐車場で原稿を10分ほど確認してから、帯広駅まで歩く。寄り道しながらなので30分。

こういう“目的地までの余白”が、あとでいちばん残る。

13時20分、ホテルニューオビヒロにリュックを預ける。

身軽になると、街がちょっとだけ広くなる。

次の狙いは「駅の東側の大通り筋にある、路地の昼飲み立ち飲み」。

帯広駅前で昼から飲む。健全か不健全かで言うと、たぶん健康には寄っていない。

広小路の少し北、いなり小路へ。

残念ながら、どこも営業していない。

膝を引きずりながら1時間歩いてるので、そろそろビールが飲みたい。ここだけは譲れない。

13時50分、創業昭和21年「鴨川」が営業していた。

瓶ビールはサントリー。山芋のたまり漬け、刺身盛り、芽室ポテトサラダ、ホタテバター焼き。

ここまでは、まあ“普通にいい昼飲み”である。

ただ、カウンターのパウチを見た瞬間、話が変わる。

なんと、3000円でチケットを買えば、1月15日から3月31日まで、グループ6店舗なら1日何店舗でも飲み放題。

「……え、3000円で? 期間中? 何店舗でも?」

頭の中で電卓が走るより先に、手が財布を出していた。

こういうとき、人は合理的ではなく、本能的である。もちろん購入した。

15時、チェックイン。

冬季オリンピックのフィギュアスケート、エキビジションを眺めながら、スマホと自分のバッテリーチャージ。

これで夕方から、堂々と飲める(堂々と飲める理屈はない)。

17時、ホテルを出て炉端「一心」へ。

17時15分入店。カウンターに座る。年配カップル二組の間に挟まる形。

つぶスモーク、蒸し牡蠣、牡蠣のとろとろチーズガーリック、十勝じゃがバター。

何度かブレーカーが落ちて、炉端の火がいい演出になってる。

狙ってないのに雰囲気が出るのが、地方の店の強さやと思う。

帯広駅前の炉端居酒屋で、小さな炭火コンロとクラシックビールを前にしたカウンター席の様子

18時、店を出る。

こうなると、次の店へ行ってしまう。3000円チケットがある限り、意思は弱くなる。

18時10分、「大衆食堂 宮」へ。

1席だけ空いてた。こういうのは運である。

ガラガラ声の店長。飲み放題と餃子とこにく。

“はしごしやすい”という設計は、人間をダメにする。

「いや、これアカンやつや」

口では言うが、手はもう次の店のドアを探している。

このへんから、隣の客の会話が妙に耳に入ってくる。

大学のテストで「辞書は持ち込みOK、端末はダメ」ってどうなの?という問い。

思わず考えてしまう。

辞書OKっていうのは、単語の意味を覚えてるかどうかが本質じゃない、という設計。

調べれば分かることは前提にして、その上でどう考えるか、どう組み立てるかを見る。

一方でスマホやPCまでOKになると、検索や生成AIで“答えっぽいもの”は出せるけど、「考えた痕跡」が見えにくい。

今は過渡期。

電卓NG→OK、ワープロNG→OKと同じで、AIもその途中。

たとえるなら、エレキギターはOKでも、オート演奏マシンはまだNG、みたいな。

どこまでを“楽器”として許すか、どこからを“代行”と見るか。

線引きを、社会が探ってる最中なんやろうな。

「隣の人、ええとこ突いてるわ」

こういう会話をつまみに飲めるのも、はしご酒の醍醐味である。

19時、ホテルに戻る。

まどろむように寝る。

結局、身体は疲れている。喉も痛い。

でも心のどこかは、駅前の灯りと店の匂いで、まだ起きている。

たぶん今日のハイライトは、豪華な料理でも、観光名所でもない。

「3000円チケット」の破壊力と、それに抗えない自分の弱さ。

そして、帯広の寒さの針みたいな空気の中で、ふいに見つけた“どうでもいい景色”に心が動く瞬間。

「喉痛い言いながら、ようやるわ」

そう思いながら布団に沈む。

旅は、身体を休ませるためのものじゃない。

頭と心を、ちょっとだけズラしてくれる装置なんやと思う。

ほな、また明日。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!